ロータリーは、ある一人のアメリカ人のビジョンによって始まりました。その人の名前は、ポール・ハリス。
シカゴで弁護士として働いていたハリスが、世界初のロータリークラブ(シカゴロータリークラブ)を設立したのは、1905年2月23日のことでした。
ハリスは、多様な職業を持つ人びとが集まり、アイデアを交わし、生涯にわたる友情を培うことのできる場として、ロータリーを設立しました。
「ロータリー」という名は、当時、各メンバーの職場を持ちまわりでミーティング場所としていたことに由来することはご承知のとおりです。
このハリスのビジョンから始まったロータリーは、約110年を経て、現在200以上の国と地域に約35,000のクラブがあり、120万人以上の会員に成長しています。
また、日本では会員数は減少傾向にあるものの、現在約9万人の会員、約2,400のクラブにまで拡大し、2020年には日本のロータリー誕生100年を祝おうとしています。
しかし、この素晴らしいロータリー運動も21世紀を迎えようとしていた頃から、少しずつ変化の兆しが見え始めてきました。
特にロータリー先進国と言われているアメリカをはじめ日本、カナダなどで会員数が減少し始め、またその活動も次第に人道的なボランティア活動が強調されるようになってきました。
さらに、その変化に時を合わせるように、会員資格、職業分類制度、例会の意義と言った初期のロータリーの基本にまでも大きく変化してきました。
ロータリーが変わった、魅力がなくなったと嘆くベテランのロータリアンの声が聞こえてきます。しかし、ロータリーの仕事をするのはクラブとその会員であってガバナーでもRI理事でもRI会長でもありません。
これはロータリーの変わらぬ原則であり、だから“You are Rotary”「あなたがロータリー」(1960-61年度RI会長 J.E.MacLaughlin)なのです。
『ロータリーは奉仕団体だ』とよく言われます。しかし、それは正確ではありません。正確には、ロータリーは奉仕する人の団体。言いかえれば、ロータリーは奉仕団体ではなく、奉仕する人の団体、奉仕する人を育てる団体だと言えます。
そして、ロータリーを学び、心が高められた人たちが、世のため人のために何か奉仕(サービス)をした結果、世界理解と平和に貢献していくと言うことになります。
また、元来ロータリーの奉仕理念は、高度な哲学や宗教から出発したものではなく、人間が本来生まれながらに心の奥に持っている目に見えない精神、他人に役立ちたいという心を発掘し、育てていくことなのです。これがロータリーの生命力であり、また原点でもあります。
ウィリアム・ロビンズ(William R.Robbins) 1974-75年度RI会長は
“Rotary’s first job is to build men”『ロータリーの第一の仕事は人を作ること』と述べています。
私はこのロータリーの根本理念は変わることがないと思いますし、また変えてはいけないものだと信じます。
このような原点に立って、私たちはあるべきロータリーの姿を見つめ直し、いま・・を刷新“Renew”する必要があるのではないでしょうか。
ドイツの哲学者ハイディガーは 「未来が過去を決定し、現在を生成する」という言葉を残しています。
野中郁次郎氏によれば、その意味するところは、過去が今を決めるのではなく、未来というものを置くことによって過去が意味づけされ、今が決まる。未来によって主導されてこそ、今というときが日々、生き生きと刻まれるとのことです。
「自分がどうありたいのか」「どうありうるのか」という未来の可能性が見えて始めて、過去に蓄積された知識やノウハウは意味を持つようになり、再構築される。そして、未来と過去が一体となったとき、現在(今、ここ= here andnow)の刻一刻の生き方が分かると言うことになるのでしょう。
ドラッカーは、どのような組織であっても「私たちはどうありたいのか、どうありうるのか、何でもって憶えられたいか」を常に考えなければならないと述べています。
経営の神様と言われる松下幸之助翁(大阪RC)も人間のあらゆる営みは『経営』なのだと看破されています。
そして「経営というものの本来の意味は、現在の延長線上において未来を考えるのではなく、将来のあるべき姿を思い描き、それを実現していくすべての行動を指して言うのであり、経営というものがなければ、国であれ組織はやがて行き詰まってしまう」と、四十年以上前から警鐘を鳴らし続けていました。
ところで、ロータリーがミレニアムを迎えた頃、佐藤千壽PDGはこれからのロータリー100年を占って三つの道を挙げられました。
その第一は古典的な理想論。つまり昔ながらの古き良き時代に戻ること。
第二の道が、二週間に一度の例会、他の奉仕活動団体などとの相互乗り入れや合併。
第三の道が、RIBIのように各地域が大幅な自由裁量権を持つ連邦組織としてのRI。
このような三つの道が示されました。
今後RIがこの三つの道の中から一つを選択するのか、全く新しい道に進むのかは分かりませんが、私たち自身がこれからの日本のロータリーをどうすべきなのか、私たちの地区は、それぞれのクラブはどうあるべきかを真剣に考えなければならない時期に来ているのだと思います。
もうすぐ100年を迎えようとしている日本ロータリー。私たちはもう一度ロータリーのあるべき姿を思い描き、夢を語り、未来を見つめ、高い理想をそこに求め、そこからいま・・(現在)を創造する、刷新すること“Renew"が、いま求められているのです。
「最初に夢がなければ、何も生まれない」(“Nothing happens unless first a dream ”カール・サンドバーグ作家・詩人)の言葉です。
しかし、夢というものは人から与えられるものではないし、自分で持つだけでも広がりません。人とかかわっていく中で、はじめて夢が広がり、深まって、大きくなっていくのです。(日本初の全盲の弁護士 竹下義樹氏)
2016-17年度はロータリーの未来を皆様と共に考える一年にできればと想い、地区のスローガンを次のようにさせて戴きました。
クラブの皆さんと一緒に膝を突き合わせ夢を語り合い、そして、勇気と想像力*で夢の実現にむけて一歩を踏み出してみようではありませんか。
“夢を語り、現在いまを刷新”
Review from the future and Renew
来し方を顧み、行く先を見つめ、理想の未来を思い描き、
今ここ(現在)を見直し、刷新しましょう
― 素晴らしい未来を創るために
会長・幹事様にとりまして思い出に残る素晴らしい一年となることを祈りつつ、
新しい夢を夢見ながら“To dream a new dream”、一緒にロータリーの夢を追い続けましょう。
*喜劇王チャールズ・チャップリンは、ライムライトの映画の中で、「人生に必要なもの、それは勇気と想像力と少しのお金です」という心の残る言葉を残しています。(人生は恐れなければ、とても素晴らしいものなんだよ。人生に必要なもの。それは勇気と想像力、そして少しのお金だ。)
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